「研究のための研究」と「実践のための実践」が、互いを参照しないまま並走している──。銀行員から大学教員に転じた私が最初に抱いた違和感でした。長期実践型インターンシップの現場には、学生・経営者・コーディネーターの熱量と変容のドラマがあるのに、従来の研究の枠組みでは、その動的なプロセスを十分に捉えられない。
この違和感を出発点に、私が「実践と研究の往還」というアクションリサーチ的な方法論にたどり着き、「問いを立てる、問いを育てる」という研究スタイルを確立していくまでのプロセスを描いていこうと思います。
私が実践の中から育ててきた7つの概念(長期実践型インターンシップの定義、場の理論、ボンディングシップ、被越境学習、地域の人事部、ミギウデ、ローカルキャリア)のマップを提示します(いずれも全てオリジナルなものとは限りません)。
はじめに
「研究のための研究」と、「実践のための実践」が、互いを参照しないまま並走している。
私は、長期実践型インターンシップというものにふれ、大学の教育現場に関わる中で、その違和感を抱え続けてきました。
地域中小企業の現場では、学生・経営者・コーディネーターが日々悪戦苦闘しながらも、未来に向けて挑戦し、関係をつくり、学び合っています。ときには、関わった学生の人生の転機になる。企業の経営者や担当者にとっても、ハッと気づく瞬間が変革を導く。しかし、その熱量や変化のプロセスは、従来のインターンシップの捉え方とは明らかに異なるものでした。そして、現場の実践の知見は、研究では十分に捉えられてこなかったのです。
大学教員の世界に入ると、研究には研究の論理があります。先行研究を整理し、問いを立て、分析し、論文化する。そのプロセス、いわば「お作法」は研究を語る上で必要不可欠であり、学術的な世界を否定するつもりは一切ありません。ただ、どの学問領域でインターンシップを語ったらよいのか。これは長く悩み続け、いまだに明確な答えを持てていない問いです。
自分が目の前で見ている事象、現場で起きている複雑な実践は、どうすれば研究という形で社会に貢献できるのだろうか。そんな疑問を抱えながら、私の研究者としての生活は始まりました。
研究編「ノリノリのインターンシップ研究(基礎)」では、姉妹編の入門編から一歩踏み込んで、私自身が実務家として、実践の世界から研究を行う上で何を考え、どう取り組んできたか──ときに悩み苦しんだプロセスも含めて──お伝えしていきます。中心は「長期実践型インターンシップ」ですが、その周辺領域の研究も数多く行ってきましたので、それらも紹介しながら進めます。これから研究を始めたい実務家教員の方、地域で実践する方、実務の最前線にいる方。誰かの何かの役に立つことを願って、この連載を書いていきます。
【目次】
- 先行研究マップ ─ この連載はどこに立っているのか
- 「現場の熱量」は、なぜ研究で扱いにくいのか
- 実践と研究を往還するという方法論
- 「問いを立てる力」が、研究をつくる ─ 7つの概念マップ
- おわりに
1.【先行研究マップ】─ この連載はどこに立っているのか
第1回は、日本のインターンシップ研究の全体を、ざっくり4つの領域に分けてみます。
縦軸:何を明らかにするか(効果を測定する ⇔ プロセスを記述する) 横軸:何を見るか(制度・プログラム ⇔ 人・関係性)

日本のインターンシップ研究は、歴史的に①と②に厚みがあります。先行研究の蓄積によって、「インターンシップとは何か」という定義論や、特に学生の教育効果の測定や大学での実践事例は着実に進んできました。一方で、④の領域──長期の関わりの中で学生・企業・コーディネーターの関係性がどう変化していくのか、そこにどんな「場」が生まれるのか──は、まだ十分に耕されていません。
私の研究は、③と④にまたがる位置にあります。①②の先行研究には敬意を払いながら、③④の領域を「実践と研究の往還」という方法で挑戦し続けたいと思っています。
2.「現場の熱量」は、なぜ研究で扱いにくいのか
私の研究生活は、2015年に岐阜大学の地域協学センターに着任し、「次世代地域リーダー育成プログラム」に関わり、学部横断的な教育プログラムを作成・実践するところから始まりました。
それまでの私は、銀行員、不動産業界、市民活動団体NAGOYA×FOREVERなど、いわゆる「実務」の世界で活動してきました。大学に求められているのは、その経験を活かして、実践的で、社会の実態を踏まえた挑戦の機会を若者に提供し、伴走支援することだと理解していました。
それはその通りだったのですが、大学の世界に入ると、当然ながらそこは研究者たちの集合体でした。統計的な分析、アンケート設計、評価の方法論。教育論の先生もいて、どのように講義を組み立てて展開するか──単に実践をして「満足度が高かった」で終わらせない、奥の深さを感じました。そして周りの研究者たちは、当然のように研究の話で盛り上がっているわけです。
こ、これは……今まで触れたことのない世界に触れてしまった。そして、研究へのお誘いとプレッシャーを感じることに……(笑)
幸いなことに、それまで研究にほぼ触れたことはなかったものの、知的好奇心は旺盛でした。本を読むこと、文章を書くこと、そして銀行員の法人営業で培った、企業の方へのインタビューや業界調査には、もともと関心がありました。ただし、何かの学問的バックボーンがあるわけではない。さて、どうしたらいいのか……。
そんな中でありがたいことに、一緒に授業を行う先輩教授の方々が、準備の合間に研究のやり方を教えてくださったり、「一緒に研究して学会発表しよう」と声をかけてくださったりしました。私はこうして、実践の現場に身を置いたまま、研究の世界に足を踏み入れていくことになります。
ところが、いざ研究として現場を捉えようとすると、大きな壁にぶつかりました。現場の動的な複雑さが、研究の枠組みに収まらないのです。
企業の現場では、毎日のように問題が起きます。学生が急に来なくなる。経営者との関係がうまくいかない。地域イベントへの参加調整が必要になる。補助金申請の締切が迫る。コーディネーターは、その一つひとつに対応しながら、学生と企業の関係性を支えています。つまり、現場は極めて動的です。
しかも、長期実践型インターンシップでは、「教育」だけでなく、「経営」「地域」「キャリア形成」「組織学習」など、複数の要素が同時並行で動いています。
ところが、研究の世界に入ると、その複雑性が急激に薄まる感覚がありました。もちろん研究には研究の役割があります。先行研究を整理し、データを分析し、知見を一般化することは重要です。しかし、現場で起きている関係性の変化や感情の動き、偶発的な出会い、場の空気感といったものは、従来の研究手法では十分に記述されにくいのです。
先ほどの先行研究マップで見たとおり、日本のインターンシップ研究は、比較的「制度論」や「効果測定」に重心が置かれてきました。就業観の変化、キャリア意識の向上、汎用的能力の獲得、学習成果──こうした観点はもちろん重要です。しかし、長期実践型インターンシップの現場で実際に起きているのは、それだけではありません。
学生と経営者が長期的な関係性を築く中で、互いの価値観が変わっていく。コーディネーターが間に入りながら、葛藤を調整し、リフレクションを促す。地域の人々が学生を受け入れ、若者の挑戦を支える。
そこでは、「教育プログラム」というよりも、「協働・共創の場」が形成されているのです。

私は、この「場」のダイナミズムを研究としてどう扱えばよいのか、ずっと悩んでいました。
転機になったのは、岐阜大学での高木朗義先生との対話でした。高木先生は、防災・まちづくり研究を専門とされ、まさに現場と研究を往還してこられた研究者です。
私は自分の中にある違和感をうまく言語化できずにいました。「現場で起きていることを、研究としてどう扱えばいいのか」「実践のスピード感を、論文の中にどう入れ込めばいいのか」「研究者は、現場とどう関わるべきなのか」。
3.実践と研究を往還するという方法論
私は、この違和感に向き合う中で、次第に「実践と研究を往還する」という研究スタイルを取るようになっていきました。
現場を観察し、そこで生まれた問いを研究へ持ち帰る。研究として整理した知見を、再び実践へ戻していく。その往復運動を繰り返しながら、問いそのものを育てていく──。

後になって知ったことですが、この姿勢は、社会科学における「アクションリサーチ」の系譜と重なっていました。アクションリサーチは、社会心理学者クルト・レヴィンによって提唱された研究方法論であり、「現実の変化に関与しながら進める研究」として知られています(Lewin, 1946)。研究者が単なる観察者として外部に立つのではなく、実践の内部に関わりながら、現場とともに知を生成していく考え方です。
長期実践型インターンシップの研究は、この方法論と非常に相性が良いのです。なぜなら、この領域では、研究対象そのものが常に変化しているからです。
学生は成長します。企業も変わります。地域も変わります。コーディネーターの役割も変化します。さらに、プログラム自体が毎年改善され続けます。つまり、固定化された対象を分析するというより、「変化し続ける関係性」を扱う研究なのです。
学生と社会人が協働する中で、何が起きているのか。なぜ、一部の学生は大きく成長するのか。なぜ、地域中小企業の経営者は、忙しい中でも学生を受け入れ続けるのか。コーディネーターは、何を媒介しているのか。
こうした問いは、アンケート調査だけでは見えてきません。現場に入り、対話し、観察し、ときには一緒に悩みながら、初めて見えてくるものでした。
例えば、学生と企業の関係性がうまくいかない場面があります。一般的な教育研究であれば、「満足度が低かった」と整理されるかもしれません。しかし現場では、その背後に複雑なプロセスが存在しています。学生側の準備不足なのか。企業側の期待設定の問題なのか。コーディネーターの介入タイミングなのか。あるいは、学生と企業の間にある価値観のズレなのか。
長期実践型インターンシップでは、こうした「関係性の摩擦」そのものが学びになる場合があります。むしろ、葛藤を乗り越える過程の中で、学生が大きく成長することも少なくありません。
ここに、従来の短期の採用を主としたインターンシップ研究とは異なる特徴があります。短期間の職場体験では見えにくい「関係性の変化」や「協働のプロセス」が、長期実践型では可視化されやすいのです。
その意味で、長期実践型インターンシップ研究とは、「教育効果測定」の研究ではなく、「協働・共創と変容のプロセス研究」でもあると考えています。先行研究マップでいえば、②の領域から④の領域へと、研究の重心を移す試みです。
実践と研究を往還する中で、問いは少しずつ育っていきます。最初は漠然とした違和感だったものが、現場観察と理論的整理を繰り返す中で、研究テーマへと変わっていく。私は、この「問いを育てる」というプロセスこそ、実践研究の本質だと考えています。
研究者の仕事は、単に答えを出すことではありません。現場に埋もれている問いを見つけ、その問いを社会に共有可能な形へ翻訳していくことにあります。
特に、長期実践型インターンシップのような新しい教育実践では、まだ十分に理論化されていない現象が数多く存在しています。だからこそ、研究者は現場から離れすぎてはいけない。同時に、実践者も研究を遠ざけてはいけない。両者の間を往還しながら、実践知を社会的知識へ変換していく。その役割が、これからの実践研究には求められているのではないかと思うのです。
おわりに
研究編「ノリノリのインターンシップ研究(基礎)」第1回は、これで終わります。
「研究」というと、難しい話に聞こえるかもしれません。けれど、私が研究という営みの中で大切にしてきたこと、これからも大事にしたいことは、実践のそばに身を置き、違和感を大切にし、問いを立てて、育てていくことでした。これは研究者だけのものではなく、現場で動いているすべての人にとって、参考にできることではないかと思っています。実務家出身であることももちろんこのことに影響しますが、関心を有する人にとって重要な姿勢の一つではないかと思っています。もちろん様々なスタイルがあるので、私がお示ししてるのは、本当に私が主語として感じているもので、何かの組織や学会などを代表して発言してるものでは一切ありません。こちらに違和感があるということも、違う方法論が確かだということに対して、そのこともまた重要なことだと理解しております。
また、連載を続けて、誰かの何かの琴線に触れたり、一人でも多くの仲間ができて、共創できるきっかけになれば嬉しく思っています。

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