研究者とは「答えを出す人」だと思われがちです。しかし、実務家出身である私が、実践的な研究に長く関わる中で確信するようになったのは、本当に重要なのは「答えを出す力」以上に「問いを立てる力」だ、ということでした。
実践の現場には、言語化されていない違和感(あいまいなモヤモヤ)が大量に眠っています。問いは最初から研究テーマとして存在しているのではなく、現場に入り込み、対話し、試行錯誤・紆余曲折の中で徐々に少しずつ「発見」されるもの。そして、一度立てた問いは、先行研究との対話や現場での観察・実践を繰り返し往還しながら「育って」いくものです。急に閃いたり、繋がったりすることに喜びを見出したりするものです。
私の「コーディネーター研究」と「被越境学習」という2つの実例で、問いが育つプロセスを具体的にたどります。
【目次】
- はじめに
- 問いが育つ4つの段階
- 第1部:研究者は「答えを出す人」なのか
- 第2部:問いが育つ過程 ─ 2つの実例
- 第3部:7つの概念マップ ─ この連載の見取り図
- おわりに
はじめに ─ 前回の続き:高木先生の問い返し
「現場で起きていることが、なぜ生じているのか?どのような原理で生まれているのか?」「あるいは、理論では言えるけど、なぜ現場ではできないのか?どうしたらできるのか?」
恩師と、こんなコミュニケーションを取る機会がありました。
私はこのとき、はっと気づきました。私は「研究なんて遠いもの、学び続けてもたどり着けるかわからない」と悩んでいたのですが、確かに私には、現場があり、実務経験がある。それを、客観的に見つめ直しながら、理論と接続しながら、そのレンズから現場の実践を見つめ直せばいいのか・・・
この問い返しは、後に私の博士論文へとつながっていきます。若者と地域企業が協働する現場を継続的に観察し、その相互作用を分析する中で、私は「場」の構造に注目するようになりました。そして最終的に、良い協働が生まれる場の条件を6つの要素に整理しました。もちろん当時の制約の中の結論で、これが具体的に成り立つのか、さらには、それ以外の要素があるのか、それを今まさにいろんな実証をしながら向き合い続けているわけです・・・・
今回は、その手前にある、研究は「答え」からではなく、個人の関心やこれまで研究が明らかにできてこなかった「問い」から始まるということ。そして問いは、立てるだけでなく、育てるものだということです。
問いが育つ4つの段階
今回の研究地図は、先行研究の配置図ではなく、「問いの成長プロセス」の見取り図です。私の経験を整理すると、問いは次の4段階を経て育っていきます。

ポイントは、段階3で先行研究との対話が入ることです。現場の違和感だけでは思いつきに留まり、先行研究だけでは現場から遊離する。両者を往復させることで初めて、問いは「研究」になります。前回お話しした「実践と研究の往還」を描き直したものです。
1.研究者は「答えを出す人」なのか
長期実践型インターンシップの研究を続ける中で、何度も「研究者とは何をする人なのか」を考えてきました。
一般的には、研究者とは「答えを出す人」だと思われています。もちろんそれは間違いではありません。研究とは、問いに対して仮説を立て、データを分析し、一定の結論を導き出す営みです。
しかし、実践研究に長く関わる中で、私は次第に別のことを強く感じるようになりました。研究者にとって本当に重要なのは、「答えを出す力」以上に、「問いを立てる力」なのではないか、ということです。
特に、長期実践型インターンシップのような実践領域では、最初から明確な問いが存在していることは少ないのです。むしろ現場には、言語化されていない違和感/暗黙知が大量に存在しています。
なぜ、同じプログラムでも学生によって成長の仕方が違うのか。
なぜ、地域中小企業の経営者は、手間がかかるにもかかわらず学生を受け入れ続けるのか。
なぜ、一部のコーディネーターは、学生や企業との強い信頼関係を構築できるのか。
なぜ、ある地域では長期実践型インターンシップが定着し、別の地域では広がらないのか。
こうした問いは、最初から「研究テーマ」として存在しているわけではありません。現場の中に入り込み、人と対話し、実践に巻き込まれていく中で、少しずつ浮かび上がってきます。
つまり、問いとは「発見するもの」です。そして、問いは一度立てたら終わりではありません。問いは、育てていく必要があります。
CoIUでは、「問いを立てる、問いを育てる」という言葉を使って、示されています。
2.問いが育つ過程 ─ 2つの実例
抽象的な話だけでは伝わりにくいので、私自身の研究から2つの実例を挙げます。どちらも、先ほどの「4つの段階」を実際にたどった問いです。
例 1.:コーディネーター研究 ─
私が注目してきた中間支援団体の「コーディネーター研究」も、最初から明確な研究テーマだったわけではありませんでした。長期実践型インターンシップの現場では、学生と企業の間に立つコーディネーターの存在が極めて重要です。しかし、初期のインターンシップ研究では、その役割はあまり可視化されていませんでした。研究では、学生の学習成果や企業側のメリットに焦点が当たることが多く、「コーディネーター」が分析対象になりにくかったのです。
実際の現場を観察していると、コーディネーターの存在によって、場の空気が大きく変わることが分かってきました。
学生が悩んだとき、話を聞く。 企業との認識ズレが起きたとき、翻訳者になる。 活動が停滞したとき、対話を促す。 ときには学生との密なコミュニケーションを行い、ときには企業側に改善を求める。
コーディネーターは、単なる「運営担当者」ではなく、学習環境そのものをデザインすることになります。
「現場で一番重要に見える人が、なぜ研究には登場しないのだろう?」──ここから私は、「コーディネーターとは何か」という問いを立てました(段階2)。
しかし、問いを立てた時点では、まだ輪郭は曖昧でした。そこで私は、現場観察を続けながら、教育学、組織論、越境学習論、実践共同体論などの先行研究を読み進めていきました(段階3)。
すると少しずつ、コーディネーターとは、学生・企業・大学を媒介する存在であり、葛藤を調整し、リフレクションを促進し、協働の場を維持する役割を担っている──という輪郭が見えてきたのです。
問いが育ってきました。この問いは後に、論文投稿によって結実していきます(段階4)。

実例2:被越境学習 ─
「教える側も変わっている」への問い
もう一つの実例です。近年、「越境学習」という概念が注目されています。企業の外に出ることで学ぶ。異なるコミュニティを横断することで成長する。石山恒貴先生らの研究をはじめ、人材開発の分野で潮流になっている考え方です。
しかし、長期実践型インターンシップの現場を見ていると、あることに気づきます。越境して学んでいるのは、学生だけではないのです。
地域中小企業の経営者が、若者との協働を通じて学び直している。 社員が、学生との対話を通じて自社を見つめ直している。
つまり、「教える側」「受け入れる側」もまた変化しているのです(段階1の違和感)。
既存の越境学習論は、越境「する側」の学びに焦点を当てています。では、越境者を受け入れた側に起きている変化は、何と呼べばいいのか? それはどんなメカニズムで、どんな順番で生まれるのか?(段階2の問い)
私はこの問いを、越境学習論の先行研究と現場観察を往復させながら育てていき(段階3)、「被越境学習」という概念で整理しました(段階4)。

2つの実例に共通しているのは、どちらも「現場の違和感」から始まっていることです。さらに、「研究の空白」でもありました。先行研究のレビューから「まだ誰もやっていない隙間」を探す研究の進め方もありますが、実践研究の場合、出発点は現場にあります。
現場で感じた違和感を、先行研究という鏡に映しながら育てていく。この順番が、実務家出身の研究者の強みを最も活かせる道筋だと考えています。(何も私が開発した概念ではなく、取り上げてる人たちはいるのですが、その人たちの関心事と、自分の関心事は異なることもあり、自分の領域の中で狭いかもしれませんが深く考えていくことによって、問いが育っていくと思っています)
3.7つの概念マップ ─ この連載の見取り図
こうして、実践と研究の往還の中から、私の研究にはいくつかの概念が育ってきました。

- 長期実践型インターンシップ(独自定義):単なる就業体験ではなく、学生・企業・コーディネーターの協働による相互変容のプログラムとして捉え直した、すべての土台となる定義。
- 場の理論(場の6要素):良い協働が生まれる条件を6つの要素に整理した、博士論文の中核。研究編のクライマックスで詳述します。
- ボンディングシップ:長期実践型インターンシップをさらに発展させた次世代の上位概念。絆(Bonding)と地域共創を中核に据えた教育モデル。
- 被越境学習:本記事で紹介した、受け入れ側の組織変容を捉える概念。
- 地域の人事部:採用や育成のノウハウが限られる地域中小企業を、地域ぐるみで支える人事機能。
- ミギウデ:中小企業経営者の右腕として活躍する若手人材のあり方。
- ローカルキャリア:地域で挑戦する若者のキャリア形成のかたち。
これらは、最初から頭の中に明確にあったわけではありません。すべて、現場での実践の中から少しずつ問いが生まれて、育っていき、自分の研究領域のテーマとして掴んできた概念です(またさらに増えていくかもしれません)。そして、それぞれの概念が「どんな違和感から生まれ、どう育っていったのか」を描くことが重要だと思います。
実践研究の面白さは、まさにここにあります。あいまいで不明確なものを形にする。そして、それを社会に共有可能な知識として整理していくこと。
例えば、これらの一つの長期実践型インターンシップ研究には、まだ理論化されていない豊かな実践知が大量に眠っていると、私は思っています。だからこそ、研究者は現場から離れすぎてはいけない。同時に、実践者もまた、「現場の経験」で終わらせず、問いとして言語化していく必要がある。実践知を、社会的知識へ変換していく。その営みこそが、これからのインターンシップ研究に求められているのではないでしょうか。
おわりに
研究編第2回は、「問いを立てる、問いを育てる」という考え方をお話ししました。
問いは、才能のある人にだけ降ってくるものではありません。現場に身を置き、違和感を拾い、先行研究と往復させる──その地道な往還の中で、誰の中にも育っていくものだと思っています。
この記事は、公式サイト「イマゼミ」でも公開しています。 HPはこちら → https://imazemi.com/
【連載回】
- Vol.1:研究編のはじめに ─ 違和感から始まった方法論
- Vol.2:「問いを立てる、問いを育てる」─ 問いが、研究をつくる(本記事)
- Vol.3(近日公開予定)

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